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雑多ななにか
by marori_75
阿部和重「シンセミア」
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阿部和重を誤解していたわたしは、
もう何年も封印していた長編に再び挑戦しました。


伊藤整賞と毎日出版文化賞を受賞した
「シンセミア」です。


読み終えた感想としては・・・
いやあ、こんなにヘビーなお話を読んだことがなかったです。
そしてこんなに悪い人(?)ばかりが出てくる話も。


推理小説は猟奇的な描写が鮮明になっているケースも増えているし、
それはそれでヘビーだったりもするのだけれど、
(女性の方がリアルに思い浮かべることができるらしいです)
そういうのを読んだ時とは違うヘビーさでした。


阿部和重はほんとうに異常者を描くのがうまい。
本人は「異常者を描いているつもりはない」という趣旨のことを語っているんですが、
いや、こりゃ異常者ですよ。
というか、まだまだ世間知らずのわたしとしては、
そう思いたいだけなのかもしれません。
ほんとうはわたしたちの誰もが、
こういう異常な部分を抱えながら生きているのかもしれませんね。


でも、あの警官だけはどうしても許せない。
ネタばれするので書きませんが、ヒドい男です、ほんと。


内容は、ある田舎町で一夏に起こった数々の恐ろしい事件の話。
一言で言えば「漂流教室」の大人版といったところでしょうか?
(恐怖の種類は違いますが、次々起こるという点で)
雑誌の連載で書いていたということもあるんでしょうが、
ほんとうに最初から最後まで怖がらせられっぱなしでした。


この作品の舞台になった「神町」は阿部和重の故郷らしいんですが、
例えばわたしと阿部和重が同郷だったとしたら、
「これはフィクションです」とはっきり言われているとしてもなんかイヤですね。
情景描写がリアルなだけに。


そうなんです。
リアルなんです。


人の憎悪や異常性が事細かに描写されているし、
猟奇的な場面や性的な描写も、リアルなんです。
そしてそれが、東北の田舎町で起きているということ。
方言で罵りあったりする場面は、リアルで本当に怖いです。
そして閉鎖的な人々の描き方。
集団性がもたらす残酷な暴走。


じめじめした、日本の田舎の怖さは、
実際に今、日本の田舎に住んでいるわたしにとってはとても身近な感覚です。
これが東京が舞台の作品なら、ちょっとリアリティがなかったかもしれませんね。


しかし、悪口を考えさせたら阿部和重は天才ですね。
あんなこと、口が裂けても言えません。


でも最近って、「作られたいい話」というのが蔓延していると思うのです。
もちろん素晴らしい話も沢山あるんだけど、
わたしは都合がいい「いい話」をちょっと敬遠してしまうところもあるみたいです。


というのも、これを読む前にやっぱり賞を取った有名な小説を読んでいたのですが、
あまりにもいい人しか出てこなくて、しかも主人公の成長が描かれていたりして、
(それ自体はいいんですが、あまりにもうまいこと行き過ぎてて)
途中で読むのを辞めてしまいました。


別にドロドロしていなきゃいやなわけではないし、
「いい話」も素直に感動できるんですが、
ご都合主義的なのは嫌いなのです。


そしてその後すぐ「シンセミア」を読んだので、
かなり打ちのめされました。
ギャップがあり過ぎて。


めくるめく想像が膨らみ過ぎて、2晩続けて怖い夢を見ました。
1日目は方言で罵られる夢。
2日目は得体のしれない恐怖で金縛りにあう夢。
ちょっとトラウマですかね。


でも、この長編は面白かった。
さすが傑作と言われているだけに。
登場人物(数が以上に多い。推理小説並)の視点の描き方が
知らない間に入れ替わっていたり、
人間ではないものの視点から人間が描かれていたり、
登場人物の異常な精神状態が「文字の膨張」という形で表されていたり、
(島田荘司にも同じような手法で書いた小説がありますが)
小説の表現方法としてもとても素晴らしかった。
・・・気持悪かったけど。


とりあえず、某ファミレスの店員さん、7時間も居座ってすみませんでした。
by marori_75 | 2006-12-29 09:57 | 演劇や映画や本や
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